子どもの頃、仲のいい友人が医者一家でそちらのお父様のお人柄が素晴らしく、次第に医師に憧れるようになりました。名古屋大学の医学部を卒業した後は、東京逓信病院、日本赤十字社医療センター、南極観測船しらせの乗り組み医官などで外科医としての経験を積み、現在は平山病院の副院長を務めています。
日本赤十字社医療センターで勤務していたとき、共に外科医として働き、お世話になっていたのが竹中文良博士でした。竹中博士は自らの大腸がん体験から退職後、がん患者さんとそのご家族をサポートするための研修をアメリカのThe Wellness Community(現在のCancer Support Community)で受け、日本でも同じ活動をしたいので手伝ってくれないかと、私に声をかけてくださったのです。2001年には認定NPO法人がんサポートコミュニティー(以下、がんサポートコミュニティー)を設立し、この活動に参加してきました。竹中博士は常々「僕はお星さまになっても空から見守っているから、これからもこの活動を続けてほしい」とおっしゃっていました。そのこともあり、竹中博士が二つ目の肝臓がんのため79歳で亡くなられた後、代表をお引き受けすることにしました。
かつての医療現場では、がん患者さんに事実を告知しないのが常識で、病名やがんの進行度を隠していました。竹中博士も「医師として一生懸命仕事をしてきたけれど患者さんの気持ちなんてわかっていなかった。実際に自分ががんになったら辛かった。その罪滅ぼしに患者さんのサポートをしたい」と話されていました。そんな創設者の想いをカタチにすべく、がんサポートコミュニティーの活動は20年を過ぎました。
がんと言っても、一括りにはできないさまざまなタイプがある疾患です。ただし、共通しているのが、ほとんどの場合、何も手を打たずに放置しているといずれは死に至るということです。そのため、がんと診断されるだけで死を意識するのは当然です。
日本の医療は世界に冠たる国民皆保険制度に支えられ、概ねよく機能しています。がんの3大療法である「手術 (外科治療)、薬物療法(抗がん剤や分子標的薬など)、放射線治療」も、必要であれば誰もが受けられるようになっています。症状が軽いうちに治療を開始できれば、治療成績は比較的良好です。
現在、がんと診断された人の5年生存率は70%近くに伸びています。また、上水道の整備、喫煙者の減少、ウイルス性肝炎にかかる人の減少など、公衆衛生上の問題も解決されつつあり、今後発がん性の要因そのものが減ると期待されています。さらに、がん検診の受診率がもっと上がってくれば、今後がんで亡くなる人は減少していくでしょう。ただ、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤などの高額な薬剤、先進医療では経済的な負担が大きくなりつつあります。これは患者さんにとっても、国にとっても大きな問題で、この傾向は続くと予測されます。
患者さんにとっては、がんと言われただけでも相当な心労があるものです。まして、放射線による治療では、皮膚がやけどのような状態になり、倦怠感が続くこともあります。抗がん剤による治療では、皮膚の色素沈着、痛みなどがみられます。このようにがん治療では、全身にさまざまな副作用が現れて患者さんを苦しめます。
なかでも、婦人科系のがん治療で使われる薬剤(細胞の増殖する仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬)では、脱毛症状が必発と言っていいほどです。女性にとって髪は自己表現のひとつでもある、大切なもの。脱毛は、人から見て分かりやすい症状のため、患者さんの心を深く傷つけます。
ただ今日では、治療に関する情報がたくさんあるので、この先どんな症状が現れるのか、どんな経過を辿るのかがわかります。そこで、ウィッグを治療前に用意したり、病院に相談したり、事前の準備を進めるのが一般的です。
長い髪は抜けた時にたいへん大きな衝撃を受けると思いますので、残念ですが入院前に短くカットすることをお勧めします。ショートカットのウィッグを準備しておけば、入院前と印象を変えることなく退院後の生活を始められます。
抗がん剤を飲み始めると、2~3週間で髪が抜けはじめ、少し抜けたぐらいの時期は帽子やスカーフでカバーすることができます。投薬後3ヵ月ぐらいで脱毛がピークを迎え、治療がひと段落すると少しずつ生えてきて、半年ぐらいで生え揃う人がほとんどです。
ウィッグが活躍するのは、脱毛のピークを越えまったく髪がない時期となります。そのため、患者さんからは「一生つけるわけではないのに何十万円と高額で困る」、「通販の安いものでは寂しい」という声が聞かれますね。
昔のものは、表面がツルツルでいかにもカツラという感じでしたが、これはかなりナチュラルですね。たぶん、これをつけている方と道ですれ違ってもウィッグだとは気づかないのではないでしょうか。
医療の現場で一番大切なのは死なないこと、治療後の見栄えについては軽視されていた時代もありました。けれど、辛さをガマンして治療するなんて延命にはつながりません。生活の質(QOL)を上げることは、患者さんが自分らしく生きることにつながり、治療においてもたいへん重要です。
がん患者さんをみていると、言葉にされなくても、ぐっと耐えて頑張っているのが伝わってきます。ご家族ができるサポートとしては、もし患者さんがうつ状態になり、死にたいと思うほど苦しいでいるときには、「働けなくてもいいから、私たち家族のために生きてほしい」という気持ちで声がけをし、一緒にがんと向き合おうと寄り添ってあげてください。また、患者さんの状態を医療者、家族、できれば職場でも共有して相談できるような環境をつくれるといいですね。
ただ医療者からみると、ご家族は患者さんと共に苦しみ、できることを精一杯やってあげようと、ときには患者さん以上に苦しいでいます。私たちは、ご家族に対するサポートというのも、とても大切だと考えています。
がん治療というのは、治療を受ける前から逃げ出したい気持ちになることがあるものです。いくら早期に発見されたといっても、再発に対する不安を皆さん感じておられるはずです。まして、ステージⅢ以上の診断を受けるとなおさらです。しかし、20年前とは違い、がんに対する治療法は大きく進歩しており、治療成績も改善しています。たとえステージが進んでいたとしても、希望をもって日々の生活を送ることが大切です。
竹中博士も、「闘わず、諦めず、だよ。苦しいだけの馬鹿げた闘いをせず、希望をもって自分らしく生きよう。がん治療は夜中にドライブをしているようなもので、ヘッドライトが照らし出すところを進み、また、そこから先の照らされているところまで進む、これを続けることだよ」と、よく話しておられました。
言い古されたことですが、やはり早期発見・早期治療が大切です。今では、がんと診断された人の5年生存率は約7割。治療の技術も進歩しているので、早く見つければ生存率はもっと良くなるはずです。現在、各地でがん診療連携拠点病院が整備されていますが、これらの専門施設で治療を受けている患者さんはまだ半数ほどに留まっています。専門施設での治療は信頼できるものですので、必要な人には受診をおすすめしたいと思います。ただ、怖い病気というのはがんだけではありませんので、学校でも社会でも、健康全般に興味をもって学んでいく必要があると思います。
一番必要なのは病院でのサポートを受けることですが、私たちがんサポートコミュニティーは、辛い気持ちを共感できる人が集まって自由に話ができる機会と場を提供しています。自分より症状が重いのに、前向きに人生を歩んでいる人の話を聞いていると元気をもらえます。自発的に我に返ってよしがんばるぞ、と気持ちを切り替えられたり、逆にまだこの時期は悩んでいいのか、それなら泣くだけ泣くか、と思えたりします。人は自分の辛さをわかってくれるに違いないという人と今の気持ちをわかちあえることで癒され、気持ちが上向いてくるものです。
病気やその治療は、生活に大きく関係してきますが、人は悩むために、苦しむために生きているわけではありません。どんな時も自分らしく生きることを心がけ、実現可能な目標を掲げて、それをぜひ叶えていただければと思います。例えば、やりたい目標を具体的にして、この症状がおさまったらここに行こう、これに挑戦しようと、ひとつずつ実行して人生をより充実したものにしていただければと心より願っています。
1980年名古屋大学医学部を卒業し、1982年より日本赤十字社医療センターで竹中文良博士と共に働く。1998年より平山病院副院長として従事。2001年、竹中博士とともに認定NPO法人がんサポートコミュニティー創設に携わり、医療相談員を務める。10年に竹中博士の遺志を継いで理事長に就任。
健康の秘訣は、できるだけ歩くこと。月1~2回は高尾山に愛犬と一緒に登っている。
治療中も素敵なヘアスタイルで
明るく過ごしていただくために。
治療中は頭皮もデリケートになりがちです。
マリブの医療向けウィッグは、地肌に直接触れても刺激が少なく、
接触冷感性により熱や湿気がこもりにくい独自の
「メゾクールネット」をベースに使用し、快適さを追求しました。